2011年3月18日金曜日

東北関東大震災の余震の統計(続き)

昨日の続きです。
地震の数理モデルですが、せっかくなのでもう一つご紹介。BKモデルよりも簡単だけど、ちょっと抽象的。
碁の盤面ののような格子を想像してください。そこにそれぞれの格子と同じ一辺の長さを持つサイコロ状のものをランダムに落としていきます。落ちる場所はきちんと碁盤の目の上です。
この作業をどんどん続けていくと、碁盤の場所によって、積み上がった高さが異なっていきます。
ランダムですが、場所によっては高く積み上がる場所が出来てくると思います。ちょっと簡単な図を書いてみましたが、図の赤の濃い部分が積み上がった物体の高さの高い場所だと思ってください。こんな具合に空間的に非一様な分布が出来てきます。

さて、ここで積み上がった物体に関してあるルールを導入します。それは「なだれ」が生じるというルールです。ある場所の高さが、周りの高さよりもある一定の値だけ高くなった場合(砂山が積み上がって傾斜が急になるイメージ)、なだれが生じるとします。なだれは高さの差が周囲と比べてある一定の値(しきい値)を越えた方向に起きるとします。まさに砂山が崩れるイメージです。なだれが起きると、崩れた先の高さが高くなるので、そこでも連鎖的になだれが起きる場合があります。
先に載せた図のように、空間的に非一様な構造を取るので、場所によってなだれの大きさが異なります。一度に加えるサイコロ状のものの数は一定ですが、時と場合によって生じる「なだれ」の規模が異なります。
地震とのアナロジーでいうと、このなだれが地震でその規模がマグニチュードだと思ってもらえればOKです。このようなモデルが一般にSand-pile modelとか論文の著者名を取ってBTWモデルとか言います。
このモデルでもなだれの大きさと頻度に関して地震と似たような統計則が見られることが分かっています。
ランダムにサイコロ状のものを碁盤の目に加えていく作業は、ホワイトノイズを系に加えるという意味なのですが、考えるシステムからスケール不変な統計性が現れるというのがとても面白いです。
このモデルも計算は簡単ですが、解析するのは結構難しいです。興味を持たれた方は、wipipediaなどを見ると参考になると思います。

さて、今回の東北関東大震災の余震についてですが、発生から1週間経ってその頻度がどのように変化してきたか計算してみました。そのグラフが下のものです。


横軸が発生からの日数で縦軸が8時間ごとの余震の数(頻度)です。機能説明した大森の公式から計算した曲線を重ね書きしていますが、おおよそ公式通りに減少していることがわかります。プロットした曲線の関数は昨日の式でK=30,c=0.5,p=1としたものです。これで見ると、来週の頭くらい(地震発生から10日後)には1日あたりの余震の回数は、8.4回位になると予想されます。グラフを見ると余震はどんどん収まってきていますから、ひとまず地震に関しては安心しても良さそうですね。
#初出で来週頭の予想余震回数を2.8にしていましたが、8時間あたりなので3倍した値に訂正

ブログの題名変えました

なんか大倉キャプテンのブログと被ってるような気がしましたので。。
前の題名は20年くらい前に書いたとあるモノからだったのです、実は。

地震について

今回の地震ですけど、余震がかなりすごいです。
で、せっかくなので地震について知られていることをちょっと書いてみようかと。
地震のメカニズムですが、よく言われているようにプレートとか断層とかがずれるって言われています。
でも実は、地面の中の構造はよくわからないので、確実な理論があるわけではないです(個人的見解だけど)。
そのような中、地震の数学的モデルとしてよく知られているものにstick-slipモデルというのがあります。
これは簡単に言うと、バネの付いたブロックがある摩擦を持ったプレートの上に置かれたようなものです。
このバネとブロックをたくさん連結させたものが地震での地面の動きのモデルとしてよく使われています。


ブロックにバネから力が加わった場合、ある一定の力以上でブロックが滑ります。その滑りはバネを通じて隣のブロックに力として作用します。これが2次元平面上に並んだものを考えると、あるブロックに力が加わる=プレート、断層に局所的に力が加わる、でその力が大きいと滑ってその歪みを周りのブロックに伝えます。
例えばあるブロックが滑ると、滑った向きのバネは縮むので、そちらの方向のブロックを押しますが、逆向きのブロックはそちらの方向のバネが伸びるので引っ張ることになります。
さて、高校で習ったと思いますが、摩擦というものには静止摩擦と動摩擦の2つが存在し、静止摩擦は動摩擦よりも大きいので、物体に力を加えた場合動き出すまでは「重い」けれど、動いている間は少し軽くなるという事がわかります。ある部分のブロックが動くと、その周りのバネの伸び縮みとして「歪み」が空間的に伝播しますが、その歪みによる力が静止摩擦よりも小さい場合、となりのブロックは動きません。単に「歪み」が空間的に「蓄積」されたわけです。

さてここで問題。2次元平面上にバネでつながれたブロックを並べて、それぞれのブロックにランダムに歪を加えておきます(どの程度の量かは知ることができないとする)。
その状態で、ランダムにブロックを選んで、少しだけ力を加えた場合、ブロック全体の動きはどうなるでしょう?ランダムに力を加える作業をどんどん続けていくと、部分的に歪みの蓄積が大きいところなどが出てくると思います。ランダムに力を加える作業で、たまたまその場所が選ばれたとするとそのブロックはずれて動くはずです。これがこのモデルでいうところの「地震」です。
この数学的モデル、一般にBurridge-Knopoff Modelと言われます、は非常に簡単な微分方程式で記述できますが、解に関してはカオスが現れること、予測不可能であることが知られています。自由度の数によりますが、現在販売されているPCでも充分にシミュレーション可能であると思います。

さて、地震に関する数学的モデルは今述べたようなBKモデルが存在しますが、他に観測から発見された地震に関する統計法則がいくつか存在します。まず一つ目は、いわゆるグーテンベルグリヒター則、と言うもので、地震の頻度(N)とマグニチュード(M)の関係を記述した経験則で、定数a,bを用いて
logN=a-bM
と記述できます。これの意味するところは、地震の大きさと頻度に関して「スケール不変性」を持つ、ということです。グラフに書くとわかりやすいですが、地震には起きやすい大きさのものは存在しない、つまり特徴的な地震の大きさというのは存在しないということです。いわゆるべき乗則に乗っているのですが、地震に関しては1/f的な統計を持つということです。良く知られた言葉で言うとフラクタル構造、と言っても良いです(フラクタルも1/fも同じべき乗則なのですが、空間に関するものをフラクタル、時間に関するものを1/fといいます)。この法則は、先に述べたBKモデルで再現できることが知られています。

もう一つ有名な地震に関する経験則は、地震発生後の時間(t)と余震の頻度(N)に関する大森の公式でしょう。
N(t)=K/(t+c)^p
Kやc、pはパラメータです。p=1とすると分かりやすいですが、余震の頻度は時間に逆比例して減少していきます。
さて、今回の地震ですが、これら統計則に合っているのでしょうか?
ちなみに地震発生後からの時間と余震の大きさ(マグニチュード)をグラフに書いてみました。
横軸が日付で、縦軸が起きた地震のマグニチュードです。


このデータは気象庁のページから取ってきて、スクリプトを作成してグラフ化したものです。
震源に関するデータもあるのですが、ここに出したものは今回の東北関東大震災由来以外のものに関して削除していません(かなり数は少ないです)。見た感じ、大きな余震が少なくなって、余震の数じたいも時間が経つにつれ減っているように見えます。
今日は遅くなったので、また明日にでも頻度分布のグラフを作成してみようと思います。

余談ですが、この地震に関するBKモデル、ストックマーケットなどの動きと似ていると言われたりします。
各ブロックをマーケットの参加者とすると、そのポジションが動くことによって他の人に影響を与え、ストレスが大きいとパニックを起こして大きく動くので、そのパニックが周りに伝播してマーケットのコラプスを生じる、といった感じです(ちょっと不正確ですが。。)。