2011年3月28日月曜日

放射性物質汚染地域の広がりの数理的考察

福島原発の事故で大気中に放射性物質が放出された。最初は大気中の放射線量が問題になっていたけど、野菜や牛乳などの食物から基準値を超える放射線量が検出され、同様に水道水からも検出されて、汚染に関するステージは第二段階に入ってきた感じだ。次の段階は、果たして日本はどれだけ汚染されたのか?、という事だろう。普通に考えると、放射性物質の放出源(ソース)である福島第一原子力発電所からの距離が問題で、その濃度はソースからの距離に反比例(拡散方程式の解で言うとexp(-x^2)、xはソースからの距離)して減少すると考えがちだが、実はそれが一般に当てはまるかというとNOなのである。拡散は、例えば水を張ったタライに墨汁を一滴たらすと、それが時間と共に拡がっていくような現象だ。しかし、おおよその放射性物質の拡散の様子は拡散方程式を今回の場合に当てはめて解いてみてもわかるかもしれない。
さて、ここで出てきた物質など(熱なんかもそうなので)の”拡散”のダイナミクスは、一般に拡散方程式という方程式で記述できる。実際にはかなり簡単な場合に限るのだけど、この簡単な方程式でさえ、解析解を求めるのは意外と難しいので、もっと複雑な現象だと現状では数値シミュレーション以外で解を求めるのはほぼ不可能だと言ってよい。
実際に拡散方程式がどのようなものかは、wipipediaの拡散方程式のページなどを参考にしてもらいたい。この方程式を試しに今回の福島原発の事故を想定して解いてみた。正直、あまり科学的には意味のないことなのだけど、自分は今回の数値計算のプログラムを作成して必要なシミュレーションを行うのに徹夜で作業してしまった。少しでも興味を持ってもらえれば良いのですが。
さて、拡散方程式を解く際に一つ重要なパラメータがある。それが”拡散係数”と呼ばれる物質の拡散の具合を表す量で、その値が大きいほど物質の拡散のスピードが速いと考えられる。さて、今回福島原発で放出された放射性物質の拡散係数はいかほどだろう?この拡散係数自体はいろいろな計算方法があり、例えばランダムウォーク理論からも導出可能なのだが、大気ほどのスケールで導出する方法が思い浮かばなかった。というのも、基本的にこの拡散係数は、瓶に閉じ込められたある気体分子の運動などを論じるときに使われるので、仮定している条件が大気のような乱流とか風のような局所的流れを考慮していないのだ。いろいろ考えたのだけど、今回は風速の値からおおよその値を仮定して使うことにした。拡散係数の次元は[距離][距離]/[時間]というものなので、物理量として解釈すると「単位時間あたりにどの程度物質が拡がるか」というようなものだと考えられる。その点、放射性物質は平均的な風の速度で運ばれるので、オーダーとしてはそれほど間違っていないだろう。という事で、今回は4.0m/secという風速から拡散係数を導出した。ちなみに数値計算で用いた長さや時間の単位は、長さが100m、時間は1時間である。
実際の計算だが、2通りのケースについて計算してみた。ひとつめは、福島原発からの放射性物質の放出が1度だけだった場合。2つ目は今回のケースに合わせたのだが、それぞれ放出された(爆発が起きた)初日に加えて、その2日後、4日後、6日後にも放射性物質が放出されたとした場合である。放出量に関しては正確な料が不明なので、一度につき100という数値だけ放出されたとした。

さて以下がその計算結果。まず最初のものが、放出が3/12日の爆発のみだった場合。

横軸は福島原発からの距離(km)で、縦軸はその地点における放射性物質の大気中の量。距離がマイナスなのは北と南みたいな事だと考えてください(同心円状に拡がるので)。これを見ると、1日も経つと放射性物質の量は放出された量(100)の1%程度に減ることがわかります。それでは今度は3/12だけではなく、2,4,6日後にも放出されるとどうなるか?

この計算結果を見ると、放出が一度だけの場合と比べて1週間経っても50km程度の区域内だとまだまだ高濃度に放射性物質が存在していることがわかります。さて、次はそれぞれの場合について、福島原発からの距離が0km、10km、20km、40km、60km、80km、160km、200km、300kmの地点での放射線濃度が時間と共にどのように変化するのかを計算したグラフです。さて最初は、爆発での放出が一度だけだった場合。


横軸が3/12日からの経過日数で、線の色で福島原発からの何キロ離れた地点での数値か区別しています。例えば緑色の線は、原発から10km離れた地点での放射線量の変化を表しています。100km地点より距離の離れた部分は線の色での区別が難しいですが、数値の高いもの程距離が近いと思ってOKです。次に放出が数日おきに起きた場合。

この計算では見ると明らかなように、合計4回の放射線の放出が起きています。合計4回なので合計で400という数値になります。今回の計算ではその1とその2で合計放出量が異なっているので直接比較が難しいですが、200km離れた地点でも3週間程たってもまだ放射線量が1ほど存在していることがわかります。この数値は相対値なので、仮に今回の原発の事故での放出放射線量が1000ミリシーベルトとすると、数値1は2.5ミリシーベルトに相当すると思われます(シーベルトは実際は拡散する量ではありませんが。大雑把に)。
この数値の解釈ですが、3週間で2.5ミリシーベルトの積算と考えると、時間単位にするとおおよそ5マイクロシーベルト毎時、という数値が出てきます。東京都内でも測定されているのは0.2マイクロシーベルト毎時程度ですので、1000ミリシーベルトの放出はかなり大きな見積もりだと思われます。でも割とオーダー的には悪くない計算のような気がします。

ちょっと長くなったので、今回はこの辺で。次あと2回ほど続く予定。
予定:今回の計算で放出量をトータル400じゃなく、4回でトータル100にした場合の結果。それから、160キロより遠い部分の詳細なデータ。チェルノブイリの時との比較。